041.短縮











 それは何気ない言葉だったり、仕草だったり。

 突然の、行動だったり。





何かの話をしていたのだと思う。
彼は椅子の上で三角座りをして、俺は彼に背を向けて皿を洗っていた。夕食の後のほんの一時。そうやって過ごすことがある。城の主は早々に部屋へ戻ってしまうので、二人、なんとなくキッチンに一緒にいて、話をする。いつも下らない取り留めのない、記憶に残らないような話。話したということしか思い出せないような、そんな他愛なくも幸福な一時。
何かの話をしていたのだと思う。
ふと、話題が変わった。
「ショートカット?」
「うん」
繰り返して述べられた単語に、彼は笑顔で頷く。けれど、繰り返したアッシュは意味を分かりかねて首を傾げた。皿の上の泡を流しながら訊ねる。
「髪型?」
「ううん。違う。全然違ぁう」
ぎぃと椅子が軋む。スマイルの不満を代弁するような音、聞きうけてアッシュは考える。ショートカットの意味するもの。他にあっただろうか。頭の上、クエスションマークを浮かべる。
そんなアッシュを見て、スマイルは唇を尖らせた。
「わかんなぁい?」
「……はいっス」
しばしの沈黙の後に耳を垂れて返事をしたアッシュにスマイルはふふっと笑う。声にアッシュが体を僅かに捻って振り向く。手は食器を持ったままなので、体ごと振り向けない。
視線の先で、スマイルがにんまりと笑った。悪戯を思いついたときの笑顔。そんなことをアッシュが思い出している間。彼は言う。
「教えてあげよっか?」
 椅子から立ち上がって、手を後ろに結んで少し肩を竦める。上目使いで子どものように無邪気な声で言われて、アッシュは思わず頷く。頷いてから、あ。と思う。自分の予想外の展開に持っていかれるのでは身構える。本当はすでに予想の範疇を超えているのだけれど。
そんなことを思っていると、スマイルの楽しそうな声が届く。
「例えば、僕と君との距離」
コツコツとブーツを鳴らして近づいて、スマイルはアッシュの傍に立つ。そして、囁くように小さな声で言葉を続けながら、
「ショートカット…」
振り向いた体制のままのアッシュに、スマイルはついばむ様なキスをした。突然の行動に目を瞬くアッシュに、スマイルは満足げににんまりと笑う。悪戯が成功したときの笑顔。真っ白になった頭でそれだけ思い、アッシュは絶句する。
「せいこう?」
嬉しそうに笑って、スマイルはうふふと笑いながらキッチンを後にする。残されたアッシュは真っ赤になって、手で顔を覆った。





短く縮めて、距離を近づける。
それは。




















 fin.









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