『 ひかりのいきもの 』









きみはひかり。

きみはひかり。


君は光。















部屋の中、境界線があった。大きな窓から差し込む日の光に、部屋は両断されていた。光と闇に分かれている。
家具の無い部屋は殺風景で人の住んでいる気配は微塵も無い。荒れている。


金の髪が光る。

部屋の光ある領域に、幼い天使が真っ白なワンピースを着て立っていた。髪を二つにくくり、丸くてアーモンドのような瞳も金色をしていた。両翼は純白。神に祝福された者。愛された者。光の生き物。その証。
無垢な瞳は光の中から闇を見つめる。
部屋の闇に閉ざされた場所。一途に見つめ続ける。



「あなたはどうしてそこにいるの?」

「闇の生き物だから」



天使が訊ねれば、闇の中からすぐに答えが返される。
優しい声。高くも低くもなく、僅かに甘い。



「どうしてこっちに来ないの?」

「光が怖いから」


「こんなに温かくて優しくて明るいのに?」

「だから、だよ」



闇の中で微笑む。その男の体は包帯で覆われていた。顔の左半分も包帯をぐるぐると巻き、露出している肌はほんの少し。紅い右目、整った眉にすらりとした鼻、笑みを崩さない口。それから、それらに面した青白い皮膚。青い髪は肩口まで伸びてぼさぼさだった。襟を肩までずらしたコートは焦げ茶に見える。闇の中では定かではないけれど。
天使はまじまじと見つめる。初めて出会う闇の生き物を見つめる。好奇心の瞳に晒されて、男は少し悪戯な笑みを浮かべる。彼とて光の生き物と正面から対峙するのは初めてに等しかった。



「君はこっちに来ないの?」

「わたしが…?」

「うん。……闇は怖いかい?」



問いに逡巡して、天使はそれでも男から目を離さなかった。紅い瞳を必死に見つめている。彼女の見つめる紅い目は、神を拒絶した者。神に背いた者。闇の生き物。その証。見つめるのは恐れているためか、それとも。



「…すこし、こわい」



胸の前で手を握り締めて零す。震える睫毛は光の中で透ける。



「でも……」

「でも?」



鸚鵡返しに聞いて、男が真っ直ぐに少女を見つめると、日の光の中で照れくさそうな笑みを浮かべた。はにかんだような微笑み。



「あなたが手をのべてくれたら、きっといけるとおもうの」

「僕が?」

「うん」

「どうして?」



想像もしていなかった言葉に、今度は男が問いかける。そして、


「あなたの声はやさしくて、あなたの瞳はとてもきれいだから」


純真無垢な微笑みと言葉を携えて言う天使に、男は驚いた表情を浮かべる。そして、長い間沈黙した。なにかを堪えるように長く沈黙した。





「どうしたの?」


やがて、天使が心配そうに言葉をかけて、闇の生き物は何でもないとただ首を振った。





光の中に生きるものは、そうやっていつでも闇に生きるものの心をえぐる。



鮮烈に、
美しく、
優しさを携え、
温かを備えて、



そう、きみは。

























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