『 月 』

















空を見上げる。
月があった。





濃紺の空にぽっかりと丸い月が浮かんでいる。白い息を吐き出しながら顔を上げて見つめる。家路を急ぐ歩調は変えず、けれど、見つめる。乱立する高層ビルの合間に、一際と目を引く。すれ違う人はまるでその存在に気付いていないかのように、先を急ぐ。自分だけが惹かれるように、一心に、見上げている。
何故、惹かれるのだろうという疑問より、美しく輝く姿に心が満たされる。瞳に収めるだけで、そんな気持ちがする。
月は冬の冴えた空気の中、孤高に強い輝きを放っている。
僅かにあの人を思い起こさせる。
孤独で綺麗で強い人。決して弱さを見せない人。
そういえば、月の裏側は地球からでは見えないと聞く。
連想して、思い出される他愛のないことも、何だか愛しく思える。似ていると思った。だから、だろうか。まるで、月に惹かれるように彼に惹かれているのは。視界に納めている間はいつも嬉しいような、満たされたような、そんな気持ちだった。
ふと、月がビルの陰に隠れてしまう。
一抹の淋しさが胸をかすめ、気付けば走り出していた。

家路を急ぐ。

少しでも早く会いたい。貴方の傍に居たい。





何よりも胸を焦がす月。


























SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送