感じたいだけだと言われて早急に触れる事を求められた。





冬の張り詰めた空気がそろそろと緩みだし、僅かに春の到来を知らし始めた。そんな昼下がり。
陽光が遮光布の隙間から零れ、一筋の光を彼に与えていた。
滑らかな銀糸が光を押し返す。まるでそんなものは必要ないとばかりに。
薄闇の中、彼はただ、ただ、しがみつく。縋りつく。
あまりにも必死に纏わりつこうとするから、もとより、あまりきちんと巻かれていなかった包帯は乱れて、スマイルのみならずユーリの体も絡め取った。
求めてやまず、放そうとしないのは彼であってスマイルではないのに、これではまるで正反対だと、緩やかに頬を擽る髪を一つ掴んで思う。
「・・・っ、・・・・・・」
必死に、一心不乱にスマイルにしがみつく。幼子が母の手を必死で握り締めるように、ただただスマイルに縋りつく。
押し付けられた壁と背中の間で、指が蠢く。爪を突き立てるほど強く、スマイルに抱きつく。
胸に押し付けられた頭。漏れる吐息が布越しに伝わる。熱を含んだそれは密着したスマイルの衣服へ纏わりつく。
嗚咽のような声と共にまたきつくユーリはスマイルに抱きつく。
これじゃあキスの一つも出来やしないと、笑みを零して、スマイルはユーリの髪を両手で弄ぶ。
ユーリが何を求めてか、必死にスマイルへ縋り付いている間中ずっとスマイルはユーリの髪を繰り返し弄ぶ。
乱暴にかき混ぜて乱し、そうしておきながら、それを元に戻すように優しく梳いてみたりもする。
下から水を掬うように髪を掬って、指の隙間から零れ落ちる様を眺める。滑らかな感触を指に触れさせる。
ああ、そういえば、革手袋など気付けばいつも無意識のうちに外してしまっているな。そんな事を今更気付いてみたりもする。
彼の銀髪は少し蒼を含んでいるなぁと、またそんな今更じみた事を繰り返し思う。



いつだったか、雪の影は何故蒼いか知っているかと問われた事があった。
そう、そんな事を彼が問うたのだ。
広がる雪上に身をおき、月光に薄く照らされながら、そんな事を問うたのだ。
そして問うておきながら、続けざまに言う。
それは空の色を映しているのだよと、鼓膜を擽るようにして笑いながら。
細い華奢な指を伸ばして、スマイルの青髪をくしゃりと握り、言う。
お前の髪は何故蒼いか知っているかと同じ調子で問う。
そしてやはり続けざまに言うのだ。
それは空の色を映しているのだよと、空気を擽るように笑いながら。
お前は空の蒼を捕まえているのだよ。
空の蒼だ。
ああ、綺麗だな。
全身に触れるような声で、ユーリは切り取られた蒼へ手を伸ばしながら言うたのだ。



スマイルはユーリの髪を撫で付ける。柔らかく弾力のある髪を優しく撫でる。
少し蒼を含んだその銀糸に触れる。
「君も空の蒼を捕まえてる・・・」
呟けど、必死になってしがみつくユーリには聞こえず、緩んだ空気に甘く溶けていった。


























for サイチ様
2003.蒼鳩 誠





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