『 灰色の瞳 』

















声が聞こえる。





















忘れたわけではない。けれど許したわけでもない。


ならばなぜ?








黄昏は色濃く影を落とす。それを見つめる。
己が作り出す闇。付きまとう影。それを物珍しげに見つめる。風が髪をさらう。彼は頬にかかる髪を耳にかける。耳朶が露になって、けれどそれを気に留めることもなく。両の手を前に差し出す。紅の比翼を広げる。
風が彼の髪を煽る。銀糸は夕日の色を映して。



なにが見えるの?



何かを掴むように差し出された両腕を白いそれが絡め盗る。包帯をいくつも風に遊ばせながら彼の立つ場所へ。構うことなく彼は包帯に絡まれたままの両腕をゆっくりと自分へ持っていく。両の肩、自分を抱くようにして。



夕暮れが。



・・・そ。



城の屋根の上。彼は夕日に焼かれ、橙に染まる。それを見つめる。伏せた目は影に視線を落とす。長い睫毛が風に揺れた。



どこにいるか分からないから。



うん。



私の声が届けばいいと。



ねぇ。



冴えた横顔。向かない視線。重ならない瞳は影を見つめる。夕暮れが全てを同じ色に染め上げる。等しく、同じ光と色と忘却と。けれど。



うたって。



一瞬、睫毛が震えて、彼はゆっくりと両手をまた空へ差し出す。求めるように大きく腕を伸ばして、悲愴な瞳を一瞬揺るがして、赤い唇がゆっくりと開かれる。彼の両腕が包帯から風によって解き放たれる。
そして、空気を揺るがすような震わせるような声が。


唇が言葉を紡ぐ。声が思いを紡ぐ。思いが夢を紡ぐ。
泣きくたびれた思いを抱いたまま、唄う。


彼方の空に声が届けと、風に唄を乗せて。












夜の闇が迫り、黄昏が終焉を迎える。夕暮れは藍色に犯されて陽は山の向こうに。唄も終わりを告げる。名残惜しげに彼の唇が唄の歌詞を音のなきまま形作る。



『                       』



なら、どうして?



唇が半開きのまま静止する。逡巡するかのように虚空へ視線は投げ出されて。そしてそれは決して重なる事はなく。





彼は空を仰ぎ、宵闇の中の細い三日月を見つけて。



( ああ、そうか )



初めて気付いたような、思いがして。

それを囁きに代える。















 あいしているから 


























ああ、唄が聞こえる。


























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